第26章 帰郷
『…中也さん、食べさせてくれるんじゃないの?』
「食べにきてくれるんじゃないかなって待ってんだよ」
『…食べさせて』
しょうがねえなぁ、なんてはにかみながら、私の口元までようやっとスプーンを持ってくる。
「口、開けねぇの?」
『蝶、中也さんに命令されるの好き』
「言い方には気を付けろよ?犯罪臭半端ねぇから…口開けろ」
言われる通りに少し口を開けば、後は食べさせてくれる。
…食べさせてもらうの、好きだ。
一緒にこうやって何かを食べるのも、笑ってくれるのも。
全部好き、大好き。
最後にこんな風にしたの、いつだっけ…最後に一緒にご飯食べたの、いつだっけ。
私、ここまで頑張ってきたの…ここまで頑張って生きてきたの。
まだいけないの?どうしてダメなの?
どうして、私のこと見てくれないの?
もう何もかも終わったはずなのに、なんで私のことまた…置いていっちゃいそうな目で見つめるの?
一緒にいちゃいけないって、そんな目で私のこと見てる。
分かってる、向こうからしたらたったの十年…そんな期間に、私には大切すぎるものができてしまった。
でも、だからって…離れなくたっていいじゃない。
私のこと、もっとちゃんと…
『____…え、…?』
やっと、素直になれてきたそんな時。
テラスで食べていたせいもあって、建物が壊れたりする前に、私の体がグン、となにかに掴まれて持ち上げられた。
「…!!蝶!!?」
大きな手に体を丸々掴まれて、それは私の体を握り潰そうとする。
気付かなかった…?
いや、何も警戒していなかった…離れすぎていたせいで、感覚が鈍りきっていた。
この世界には、虚が存在していることを。
「お前…見えてるな?……それに美味そうだ、何者だ?」
『…ごめんなさい、私…今、斬魄刀を持ち合わせていないの』
「!斬魄刀を持っていない死神…?これは思わぬ拾いものだな、一度解体してからじっくりいただいた方が楽しそうだ」
解体という言葉に血の気が引くような感覚がした。
しかし、この方がいい。
このままここで戦闘をすれば、近隣住民に私の存在が露見してしまう上に、被害だって出る可能性がある。
このままどこかに連れ去られて、そこから自力で魂葬した方が被害が小さいはず。
今は鬼道しかまともに扱えない…虚の魂を壊さないためには、他の力じゃ相性が悪すぎる。
