第26章 帰郷
「あれだけ好き合ってたくせして…あんた、自分からあいつに距離取ってんじゃねえか」
気がついていなかった、全く。
気遣いなんてしないようにって、意識して…意識しなければ、できなかった?
「それに、澪の目の前でその一人称は拙かったんじゃあないのか?ただでさえこっちに戻ってきたばっかりで、それも向こうからしてみれば会えるだなんて思ってもみなかった再会だ」
夜一さんの言葉に耳を傾ける。
「それが、会えたと思ったら…悪気がなくともそんな突き放され方をすれば、誰だって寂しく思うじゃろ。それが、あの子にとってのお前じゃぞ?……自分がどれほどあの子にとって大きすぎる存在になっているのか、忘れたのか?」
「…寂しがり屋ッスからねぇ、うちの娘は」
「寂しがらせてるのはあんただろうが。…って、まさかそんな深いところまで中原さんは見抜いてあんなことを?」
黒崎さんの声に、自分を含めてまた気が付いた。
なんという人だ、いくら素直な子だといってもわかりやすいのは彼女が表に出してくれてる部分だけで…それ以外は中々悟らせてなんてくれないのに。
まだ、出逢って十年にも満たないほどの付き合いだろうに。
…ああ、だからあんなにも人間らしく怒れるようになったのか。
だから、あんな怖がりな子が…壮絶な経験をさせられても尚、あの世界で生き続けてこれたのか。
「……完敗っすね。すごいです、あの人…千八百年を十年未満で取り戻しちゃうどころか、それ以上にまであの子のこと成長させてくれちゃって」
自分にはできなかったことだ…自分が、させてやりたかったことだ。
一緒に過ごした期間だって、そんなに長いものじゃなくて。
自分のせいで一緒にいてやれなくなって、最終的に彼女を途方もない絶望へと突き落としてしまう原因になってしまった。
…そうか、あの子は半永久的にも近いようなそんな時間を、離れて過ごしていたんだ。
こちらではたったの十年程…しかしその十年、こちらではそのままの時が流れて、お互いの関係や色々なものが成長して育ってきた。
「嫉妬するでない、このろくでなし。お主、死ぬまで独身貴族じゃのう?」
「結構気にしてるんですからね…?」
寂しかったんだ。
他の誰もが成長し、その間の時間を共有して育んできているのを目の当たりにして…自分だけが、遠いところに置いていかれてしまったような気がして。
