第26章 帰郷
「…澪さん……?」
『…もういい。ごめんねいきなりお邪魔してたのに騒がしくして』
「いや、騒がしいのは寧ろお前以外の奴らだしいいんだが…どうした?本当に」
『なんでも』
いやいやいや…
心の中でその場の全員が思ったはずだ、嘘下手くそかこいつ。
「…こっち来て飲むか?」
「い、いいんすか…お邪魔します」
明らかに背中の丸くなった浦原さんが、黒崎父の元へと行く。
そんな様子に、俺も他の奴らも皆何も言えずにいる。
「ち、蝶?…お前何怒ってるんだ?」
『別に怒ってない』
「…じゃあなんでその可愛い顔、眉間にシワ寄らせてんだ?」
『は、…?…ッ!!!?』
目線を合わせるべく腰を屈めて見つめると、すぐにそれに反応して体を反らせる蝶。
「言いたくないなら今じゃなくてもいい。けど、お前何か今すごく辛いんだろ?」
『…、…中也“さん”、蝶、アイス食べたくなってきちゃった。…美味しいの食べに行こう?』
俺の服の裾をそっと手で引くその行為に、俺以外の奴らが目を丸くする。
「構わねえけど、ここでの貨幣は?」
『同じ“円”だよ。質も同じだった』
「了解。けど俺、ここらの店なんか分からないぞ」
『…なんでもいい。一緒に食べる』
了承の意味を込めてぽんぽん、と頭を撫でてから手を握る。
「てなわけで、後でまた邪魔しに来させてもらうわ。とりあえず世話んなった」
『…お邪魔しました』
黒崎達へ向けて言ってから、蝶は浦原さんから目を逸らすようにして、俺の手を引いて出て行った。
理由なんか、俺からしてみれば察することは簡単なもの。
「……お前、ほんと心配性。誰が聞いたって嫌になんかならねえのに」
『…子供じゃないから』
「…強がんのは昔からの癖か?……ほら、背中乗れ。盛大に甘やかしてやる」
足を止めてそう提案して笑いかければ、少しの間呆然としてから、しかしなにかに導かれるようにして俺の背中に抱きついてきた。
『子供じゃ、ないから…』
「どの口がほざいてんだ中学生が。まだまだガキだろ阿呆…せっかく子供になれたのに、なんだ?俺や浦原さん以外がいるとまだ難しいってか」
『関係、ない…もういい、から』
少しだけ涙ぐんだその声が痛々しく感じられた。
…不安でいっぱいになって、寂しかったんだ。
自分がいなかった時間を、感じ取ってしまったんだ。