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第26章 帰郷


「中原さん、あなたはこの子が選んだ人だ…今からする話を、よく覚えていてください。大事なことだ」

ここなら会話の内容が露見する心配も、盗聴される危険もない。

そう言ってから話されたのは、蝶の体についての詳しい話。

最初に結論から話されたその時に、俺は思わず目の前の男の狂気じみたその愛情に背筋が凍りつきそうにさえなった。

この俺が、だ…蝶から頭がおかしいと散々言われているこの俺がだ。

…もっともっと、えらくイかれてるレベルに値する奴が目の前にいた。

____いいですか、よく聞いてください。

「…この子の肉体は、今は“義骸”という特別な器の中に、この子の核と魂…魂魄と呼ばれるそれを閉じ込めたもの。…しかしこのこの場合は、この僕の特別製の義骸……この器は、“生前のこの子自身の肉体を”用いた、正真正銘の特別製のものなんです」

「は……、?…と、いうと…?」

「分かりませんでした?それなら言い方を変えましょう…生前のこの子の心臓が止まった後、この子の肉体は現世の誰にも発見されはしなかった…なぜだかわかります?」

何故だか、など話を聞いていれば理解はできるはずだった。
しかし、これは“そういう”問題じゃない。
“そんなレベル”で終わらせてもいい話じゃない。

「…誰もが、この子の遺体を遺棄できなかったからです。どう頑張っても…この子が心の臓を止めた後でさえ、肉体は再生を始め、まるで生きているかのように綺麗なまま」

どうしようもなくなって、最終的には気味悪がられて、誰も彼女を遺棄してやれない。
実の肉親たちは…言わずもがな、干渉しようとさえしなかった挙句に血縁関係でさえもを否定した。

「そんな状態で…そしてそんな生涯を送って、この子の魂は行き場をなくしてしまいました。……そうなれば、普通は憎悪や嫉妬などのマイナスの感情から、現世でさまよい続けて“虚”となってしまうのが末路です」

虚…魂魄が生前に持っていた負の感情から生まれる、狂暴な化け物であると聞く。
だから、俺は咄嗟に、この浦原喜助という人物が、虚となりかけてしまった蝶を助けるために処置を施したのかと思った。

…普通はそう考える。

「しかし、彼女には負の感情さえもが無かった」

「!!!」

「現世で何か成し遂げたい訳でもなく…ただただ肉体が消滅しなかったから、ただその為に成仏できなかったんです」
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