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第26章 帰郷


「…あらら、まだまだこれからだっていうのにお寝んねですか…後ろの方も感じやすかったらしい」

「…麻酔か?さっきのは」

「ええ、霊子に乗せて特別製のものをね…僕は一途なんですよ」

蝶を撫でながら言うその口ぶりは本物なのだろう…が、それにしても胡散臭いなこの人。
なんというか、そんな役回りを選ぶようなところまで蝶にそっくりというか、蝶が似たというか…

「一途って、そんなこと俺もこいつも分かって…」

「言いませんでした?…僕は、生まれ変わる前のこの子を愛した人間だ」

「…そういう、ことかよ」

一途って、そういう…愛人って、そういう。

「まだ言葉もろくに知らなかったようなこの子に、言語能力を与えるきっかけになってしまったのは僕だ…それから、自殺を図らせてしまったのも僕のせいだ」

「でも、それなら尚更…っ」

「…できないですよ。だって、一人くらいいたっていいと思いませんか?……この子のことを、生前に一番に愛した人間が存在していたって」

浦原喜助という男の、懐のひろさ…そして愛情の深さやその執念を、俺はここで再認識した。
この人、下手したら俺よりも…

誰かを愛しているという事実を度合いで測ろうだなんて無理なこと。
しかし、下手したら本当に俺よりも執念深く、俺よりも長く深く、蝶を愛し続けているのではないのかと。

そう思えてならなかった…そうとしか思えなかった。

そりゃあ、蝶が恋愛感情だなんてはっきりと理解できるわけがない。
恐らく彼女は、十分な受け止め方も応え方も分からずに…しかし本当に心の底から、この目の前の男のことを愛していたのだろう。

ただ、お互いに想いが深すぎて、強すぎて…そして関係が複雑すぎて、ある種超越し過ぎているとも言えるその感情に、そんな名前では済まされなかった。

そんな中現れた、平子真子という…蝶にとっても相手にとっても、ただの一人の異性から始まれた相手がいた。

だからそこで、純粋に愛情を育ませて…そうしていた矢先に、離れ離れになった。
ならざるを得なくなってしまった。

白石澪…蝶というこの小さな子供は、とっくの昔から分かっていたのだ。

白石澪として生を受けるもっと前から…この男のことを愛していたのだと。
依存にも似た気持ちであれ何であれ、浦原喜助という人間を愛していたのだと…愛されていたのだと。
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