第26章 帰郷

｢今すぐここで貴女の唇に口付けることだって…なんなら無理矢理することだって、僕にはできる。でも、それはしちゃいけないことだ…｣

『…一日だけ、貴方のものにしてもいいって言ったら？』

｢……なんでそんな嬉しい事言ってくれちゃうんですか、本当に…中原さんになんて言えばいいんですか｣

『私も共犯だって言えばいいですよ。…ああ、でも唇はダメ。あとは…』

｢……澪さん、今ここで中原さんを呼んでください。ここに彼を来させてください｣

喜助さんからの提案に疑問はいくつもあった。
しかし、それでもやはりしっかりした人だ…我慢してばかりの人だ。

有無も言えずに扉を作り、中也を強制的にこの場に移動させる。

｢っ、今のはちよ…、の…＿＿＿＿｣

｢…すみません中原さん、あまりにもこの子が可愛すぎて…僕、何しちゃうか分からないから、一緒にいてもらっていいですか？｣

『…』

へらりとしているその表情に、私は何も言えなくなった。

ここまで怖がっている喜助さんを見るのはいつぶりだろう…どれだけ私を求めていたのだろう。

｢…あんたらの関係は、細かくは知らないが薄々俺も勘づいてる。………いきなりで驚きはしたが、浦原さん…あんた、俺と同じタチの人間だろ｣

｢…同じ、というと？｣

｢俺はこいつに一目惚れして、かっさらっていったただの悪人だぜ？…そんなところなんじゃねえのかよ｣

察しの良さに、私は目を丸くした。
喜助さんは何ともないような顔だけれど、手の震えがピタリと止まる。

｢よく、お分かりで…それにもっと言うと、何度も何度も手を出しかけた…危うく、この子の実の兄のその先まで進んじゃうところでしたよ｣

｢！…そこに平子みたいな奴が現れたから、無理矢理身を引こうとしたってか？……それで、今になったら俺がいるって？｣

｢…察しが良すぎますよ。……そういうことです、だから、僕とこの子をこれ以上二人きりにさせない方がいい｣

｢俺は蝶には一番最初に、あんたのものになってきてやれっつったはずなんだけどな｣

｢『！！！』｣

そこまで明言はされなかったはずだが、彼はそんなつもりで…？

予想外すぎて私までもが動揺するのだが、そこから彼はこちらに近付いて私の制服のリボンを外す。

『え…ｯちょ、中也、何して…っ』

｢俺がいねぇと悪い気がしてならないんだろ？それなら俺がしてやるよ｣