第26章 帰郷
「今だって現に、こんな風にされちゃってるのに…無抵抗じゃないですか。まさか、今になって僕の気持ち忘れちゃった、なんて言いませんよね…?」
『…私は、あなたにならもう何だって捧げる覚悟はできてます。中也を裏切るような行為は確かにしたくないしすべきじゃない…でも、喜助さんだって忘れてませんか?私のこと』
「…忘れてるって、何を?僕は貴女のことを忘れたことなんか、一時も___」
『私は喜助さんとなら、地獄に落ちたって文句ないよ』
はっきりと声にすると、見開かれる翡翠の瞳。
「……地獄って、またそんな大袈裟な」
『覚悟はできてます。元々、貴方がいなかったら今ここにだっていないんだから…中也に手を出すのは許さないけど、私に何かして私が殺されるなら、私はそれでもかまいません』
「…嬉しい事言ってくれちゃって……僕はもう、君の何もかもを奪ってしまった存在なのに。まだ与えようとするんですか」
『足りないから、全然…足りない。だって、知っちゃった…あの世界で分かっちゃった。どれだけ愛してる相手に求めたいか…求めてほしいのか、全部全部…、なのに…っ』
言いかけたところで、喜助さんの手が私の髪を解く。
それから丁寧に隣に蝶の髪飾りを置いて、髪を指に通してそこにキスをした。
「もう…だから教えないようにしてたのに、なんで僕に求めちゃうの?そういうの」
『……喜助さん、わたしのせいで何もできてないと思ったから』
「!…何も、って……」
『…私と出会わなかったら、あなたは普通に…、なんにも気負わずに過ごせ…、て、っ…ぁ…ん、ンッ…!?』
唇に人差し指を添えられればパク、と耳を唇で挟まれ、それからそこをほぐしていくように舌が撫で始める。
「…、僕が、貴女と出会って人生を無駄にしたって?…どこの誰ですか、そんな馬鹿なこと言ってるの……流石の僕でも怒りますよ」
『ぁ、っやだ、それだめ…ッ!!!な、何か…ぁ、…っ♡』
反射的にも肩が跳ね上がらないように、片方は手で押さえられてて。
「久しぶりの再会でそんな悲しいこと言っちゃうなんて……どれだけ我慢してきたんだ、貴女は」
『ひ、っう…、!!?♡…ふ、え…な、にが、ぁ…ッ』
「貴女が側にいないのに…、どうして僕が幸せになんかなれるんだ…っ、!!」
ふと、いつだかに聞いたことがあるような言葉が放たれた。
