第26章 帰郷
「それで皆の前でちゅうされちゃったんだ?ラブラブっすねぇお二人共」
『からかわないで喜助さん…私にそういうの教えたの全部喜助さんなのに』
「やだなぁ、僕は君のこと可愛がってただけですよ」
喜助さんの言葉に少し間を置いてから嘘つき、と返せば、すみません、と微笑まれる。
なんて人だ、本当に。
『嘘ばっかりつくから皆信用してくれないのよ』
「ははは、何も言い返せないなぁそれは…でも澪は信じてくれるんでしょう?」
『……中也に何もしない限りはね』
手を止めてこちらを振り向く喜助さん。
彼の大きな手が頭に触れ、それから頬、肩、手とおりてくる。
擽ったさを感じつつもそれに耐えていれば、ふふ、と彼はまた優しい顔になった。
「…嫌がらないの?…ダメじゃない、旦那さんまでできちゃったのに」
『…可愛がってるだけなんでしょう?』
「あらら、拗ねちゃって…必死なんですよ、これでも。こちらは…貴女に比べたらたったの十年しか経っていない。けど、だからこそ僕は……何も、諦められなかった」
自嘲するように…寂しそうに、彼は続ける。
「貴女を探すのも、迎えに行く道を作るのも…帰ってきてもらうのも……」
それから、今度こそちゃんと一緒に暮らすのも。
彼が弱音を吐く時はいつもそう。
私をちゃんと見つめて、言ってくれる。
私なんかとは正反対で、すごく素直で優しくて。
『…肝心なところで素直じゃないんだね、やっぱり』
「?どういうことでしょう」
『真子くらい強引に言い寄られたって、今更離れてなんていかないのに』
「…そういうこと、あんまり言わない方がいいですよ」
『どうい、う……____』
ふわりと、力が勝手に抜けてしまうかのように崩れる姿勢。
身体がそれに逆らわなくて、ただただ自然に床に仰向けになる。
今の自分の姿勢に気がついたのは、目の前に喜助さんの顔と天井があったから。
「…危険だ、本当に。折角こらえてるっていうのに貴女って人は」
『、っ…ぁ…、あ…ッ、ン…』
額、瞼、頬…それから首筋。
順番に優しく落とされていく口付けは懐かしい香りとあたたかさ。
「感動、上がってません?まあ当然か…澪さん、あなた平子さんに、変なことをするなら殺すとまで口にしてましたけど……」
____それ、僕にも同じこと言えますか?
聞かれた問に、私は動揺もしなかった。
