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第26章 帰郷


「…誰かの墓か?」

「おや、これは察しのいい…もしかして澪さんからお話を聞いたことがあるのでは?」

「少しだけな。…それに、あいつはことごとく不運ならしい……大事な相手ほど、すぐにあいつの前からいなくなる」

「…そちらの世界でも、同じようなことがおありで?」

「まあ、な」

ふと思い浮かんだ、織田の顔。
…そんな相手がこの世界にもいたのかもしれない。

大事な相手にほど言えないことが、人間には少なからず存在する。

しかしそれと同時に、そういうのを吐かせてしまうような…安心させてしまうような、大事な存在だってあったりするのだ。

俺や浦原さんとは、また違った次元の…俺の世界で言うところの、今では太宰やトウェインのような、
あいつらがもしも今喋ることの出来ないような遠い存在になってしまったら、きっとどうしようもない感情に支配されそうになった時、蝶はそこを心の拠り所にする。

…人間は、そんなに強くはいられない。
そんなものなのだ。

「…それに、彼女がいない間に…どれだけあの子の慕っていた方々が亡くなってしまったことか」

「……けど、それなら…浦原さん。あんたがちゃんと生きててやっててよかったじゃねえか…それから、平子も」

「!…僕と平子さんは、一度彼女を…自ら手離してしまった人間ですから」

浦原さんの言葉に目を見開く。
手離した…?

どうして、というよりも、衝撃の方が大きかった。

こんなにも…あんなにも、再会を喜んでいたこの人が…平子が?

「まあまあ、その話はもう終わったでしょ?澪ちゃんだって分かってくれてるし」

「…それでも、あの子を泣けなくさせてしまった原因は僕達にあります」

「それを言うなら、もっと他に黒幕がいたでしょうに…本当、澪ちゃんのことになると自責の念にかられるねぇ君達?澪ちゃんそっくりだよ」

「…あの子ほどじゃありませんよ。……さて、そろそろ様子見てきますね?…それとも中原さんが行かれますか?」

「いや、多分今回の場合は…あんたがいるんなら、自分で行った方がいい。……何も俺に気遣わずに、“これまで通りに”甘えさせてやってくれ」

その方が、あいつが生きやすいはずだから。
…そうしないと、これまで頑張ってきた蝶が…あまりにも、報われない。

二千年弱も、頑張ってきたんだ…あんなに小さい体で。
俺がそれを邪魔しちゃいけない。
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