第25章 収束への旅路
何をすればいいんだろう…どうやって伝えればいいんだろう。
私は、自分から人に向かって好意を伝えるのがとても苦手な人間で。
『チョコレート…なんか渡されても…』
どうせ、喜んでくれてしまう。
しかし、だからこそ困らせてしまう。
喜んでくれればいいのに、あの人は必ず私に対して、その日だけは喜んでくれるだけで終わってはくれない。
大事な日…大切な日だからと、いつも以上に私を強く抱きしめてくれる。
そんな日。
…やはり複雑な心境にもなるだろう、自分の愛しい人間が…命日に自分に贈り物をするだなんて。
私が彼に命日を告げたのは、出会って一番最初に迎えたバレンタイン…その前日。
流石にそろそろ彼の精神が持たなくなるかと思いきや、存外彼は私に対して情が増しただけであったらしく、更に大切にしてくれるようになってしまったのである。
…せめて中也が、どこかの馬鹿みたいにチョコレートでも強請ってくれればいいのに。
まあ、その実繊細な彼には無理な話なのだろうけれど。
頭の中でちらつく綺麗な金髪が、妙にまた私を恋しくさせる。
『……____、…』
初めてだった、この世界であいつの名前を口にしたのは。
初めてだった…こんなにも、後悔を覚えたのは。
だって、私はこの世界で初めて知ったのだ。
人を愛しく思うということを…人を恋しく思うということを。
これだから嫌なんだ、こういう行事は。
私を喜ばせるような思い出だけならまだしも、そんな何気ないことまでひっついて記憶から離れない。
何度願ったことだろう、何度報いたかっただろう。
帰ったら…帰れる時が来たら、ちゃんと言わなきゃ。
…それまで生きててくれるかな。
おじいちゃんにでもなっちゃってて、私が並んだら孫みたいになっちゃうかな。
チョコレートくらい、渡してあげればよかったな。
『……何、しようかな』
中也には…せめて彼には、精一杯報いたい。
こんな後悔、したくない…してからじゃあ遅すぎる。
普通のチョコじゃ、全然足りない。
お菓子でだって、足りはしない。
…どうやって、伝えよう。
白石蝶が、澪よりも前のただの私に戻ってしまうその日に…どうやって彼に、伝えよう。
『……』
二月十四日まで、あと二日。
思いついたそれは、なんとも馬鹿げた子供だまし。
教室に戻ると、一斉にその場がざわつき始めた。
