第25章 収束への旅路
昼時に入る着信。
蝶の愛妻弁当を食べようとする頃にかかってきたその電話に舌打ちをしつつ相手を確認すると、前原からのものだった。
「…なんだ、陽斗?何かあったか?」
「あ、中也さん!?ああ、ちがうんです、緊急事態…とかじゃないんですけど…」
あわてふためく様子の餓鬼どもの声に、事情を話されて納得した。
バレンタインデーの話…イベント事の話。
まあ、確かにあいつからしてみたらあんまり覚えておきたくはない話だろうな。
それも、二月十四日とは…
「あー…手前ら、あんまり気にしなくていいと思うぞ?それは…しばらくすればまたちゃんと戻ってくるだろ、戻るってあいつが言ってんだし」
「で、でも嫌な事言っちゃったんじゃないかって…!!」
「嫌な事っつうか…あいつからしてみれば、嬉しい思い出もあった日なんだろ、だからあんまり覚えていたくないだけだ。大丈夫だよ…あいつが俺に会いたそうにしてたらまた呼んでくれればいい」
「えっ、…覚えていたくないって…あ、そう…だから嫌な思いしてるんじゃって…」
「…二月十四日はまあ、複雑な気分になるだろうなあいつからしてみたら。でも大丈夫さ、そのあたりは割り切ってるからよ…もう解決した話だから、しばらくそっとしておいてやってくれ」
「…はい……な、何かあったらまたかけますね!?本当にごめんなさい!!!」
「そんなにかしこまんなよ、手前らこそ気にかけてやってくれてありがとうな。あいつの代わりに俺から言っとく」
よっぽど心配だったのだろうが、それでも大丈夫だ。
電話を切ったら、昼食を共にして蝶の自慢話をしようとしていた立原から目を向けられる。
「…バレンタインっすか?……それ、あいつからしてみたら…」
「ああ、まあそうだな。複雑にも程がある…イベント事ってだけでもそうだが」
俺と立原が重視しているのは、その日付けだ。
蝶から聞いた話でしかない上に、当時“本当に”ただの六歳児であったあいつには、バレンタインだなんて概念も無かったはずであって。
「二月十四日……中也さん、蝶に何かしてあげるんですか?」
「当たり前だろ、俺がしないはずがない…何したらいいと思う?」
「花束とか用意してみたらどうで…ああ、抵抗ありますね知ってる身としては」
二月十四日…バレンタインデー。
一人の少女が、冷たい水の中で命を落としたその日である。
