第25章 収束への旅路
「そういえばあともうすぐバレンタインだよね!!蝶ちゃんはやっぱり中也さんに何かあげるの!?」
『バレンタイン…?……あ、ちょっと待って今から思い出す…けど、何だっけ…?』
矢田ちゃんの言葉にへらりと笑って返せば、こぞって私の周りに群がり始める女の子達。
「女の子が、気になる男の子とか好きな人にチョコレートをあげる日なんだよ!!二月十四日!!」
『…?女の子が……?』
あれ、何か私の知ってるその行事と違うような…
すると、そこに現れるイリーナ先生。
「ああ、蝶にはあまりピンとこないかもしれないわね?…女性側からそういったことをするのは、日本だけのバレンタイン方式なのよ」
『!…そういうこと、…なるほど、逆になるんですね?』
「えっ、日本だけってどういうこと!?」
倉橋ちゃんの問いに、イリーナ先生から促されてそれを話す。
『例えば…また別のところになるけれど、私は多分イタリアやフランスあたりのバレンタインなら知ってる…と思う。…海外の方になると、男性側が女性側に何か用意するのが普通なの』
「ちなみに蝶ちゃんはもらったことは…?」
『!……あんまり、思い出さないようにしてる』
そういえば、小さい頃は中也や作之助や太宰さんなんかにチョコレート渡したことあったっけ…首領に言われて。
なんて別のことを考えていると、知らず知らずのうちに周りがシン、としていることに気がついた。
『あ…ごめん、何か変な空気にしちゃった。え、っと…そ、そうだね。いきなり何か知人にプレゼントされたな〜って思ってたらバレンタインだった…とか、食事に連れて行ってもらったりとか、なら』
「ロマンチック…そういうのが無いからダメなんだろうなぁほとんどの日本人って」
「憧れる…」
まあ、過ぎたことは過ぎたこと…
……ああ、だからあんな風にチョコレートを強請ってたのか、なんて思い出す人物がいたりいなかったり。
『…全然作ってあげなかったな』
ポソ、と漏れた声に、また空気が変わる。
そろそろダメだな、私も。
『…ごめん、ちょっと外行ってくるね?お昼休み終わるくらいには戻るから』
「あ…っ、蝶ちゃん…!」
『うん、何ともないから大丈夫。ちょっと横になってくる』
頭に思い浮かべた懐かしいあいつは、今も元気に馬鹿をやっているだろうか。
今も…まだ、生きているのだろうか。
