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第25章 収束への旅路


「あんな状態にでもならねえと、素直になれなかったんだろ…?俺のことが大事すぎて…俺のことしか、考えられなくて……」

自分のこと、ちゃんと分かってなかったんだろ?
だから今、生きてる心地がするなんて思ってるんだろう?

目を見開く蝶に回した腕を力ませて、大事に、ただ大事に…離れないように腕に抱く。

蝶が理性を手放すというのは…人間がそうなるというのは、もう周りの環境に気を取られる余裕がなくなり、そこの世界と自分の感情とがシャットアウトされている状態になるということだ。

そうなってようやく、自分の気持ちが認識できるようになる。

蝶はただ素直じゃなかったんじゃない…ちゃんと分かりきっていなかった。
ただ照れ屋だったんじゃない、言われる言葉一つ一つに敏感だった。

「他人と築いてきた関係性が薄かっただとか、まともな人間関係を何百年も築いてこなかったとか、そんなレベルのもんじゃねえ…なってみてようやく分かった。……誰かに触れててもらわないと…大事にされてるって、実感出来ないと…怖かったんだろ?不安だったんだろ…?」

自分はそこにいるはずなのに、まるでそれが実感出来なくて。

本当はここに自身の実体などないのではないか…存在などしていないのではないか。

しかしいざ傷つけられてみれば痛みはある。
暴言にだって、死にそうな程に胸を突き刺されて…実際に殺されたら、本当にそれで死んでしまって。

そんな生活…感覚が麻痺したって当然だ。
蝶は、ただのか弱い女なのだ…麻痺しない方がどうかしている。

「…今、分かるか?…ドキドキしてんなら、ちゃんと感じるだろ…自分の心臓の音。ちゃんと、感じるだろ?……ちゃんと持ってる、自分の感情」

『…ぁ、っ…、…こ、んなの…知らな…っ』

「じゃあこれから知っていけ…俺がちゃんと教えてやるから。……甘えていい、泣いたって…怒ったっていい。ただ、俺とこうやって触れ合って…一緒に生きて、好きなことして、できることなら笑えるように生きていってくれりゃ…それでいい」

俺の背に回された手が、ぎゅっと俺の上着を、力いっぱいに握りしめる。
それから、どこにも行かないでというように…やっと出逢えた存在を手繰り寄せるように、最大限に力を入れて抱きしめて。

この日、俺は初めて、彼女が一番に人間らしく泣く声を聴いた。
ぐちゃぐちゃな顔を…止まらない涙を見た。
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