第25章 収束への旅路
だから気付けたのだろうか、蝶の様子が少しおかしいことに。
だから気付けなかったのだろうか…自分が、やけに蝶をまだ離したがらなくなってしまっていることに。
俺だって、なんの理由もなしに私情で彼女を休ませることなど、普通はしない。
…何となく、落ち着かない。
「俺達、多分今同じ感覚だろ?身体の感覚が」
『…多分』
「…今までお前、常にそんなに周りの存在に晒されながら過ごしてきてたんだな……そりゃ、関わるのも億劫になるわ」
俺の中に出てくる言葉といえば、何せ周りが気になってしまうということ…これに限る。
そこに何かが存在していると、それを感じ取ってしまう…そしてそれが己の興味を示す対象にもなると、相手の感情に敏感になる。
そして…心配になり始める。
これはどういう感情の表情なのか、雰囲気なのか、喋り方なのか…
大切な存在が相手になるからこそ、気になる要素が尽きなくなる。
さっきまでの俺だって、蝶について自信を持っていた事を二度三度と自問自答してしまうくらいだった。
『…中也さん、もし辛かったら私に戻してくれても構わな「馬鹿、辛くねえよ…お前のこと、ちゃんと理解してやれそうで寧ろほっとしてる。…ただ、いつにも増して暫くお前への執着が抑えられそうにない」……いいよ、大丈夫。こんな身体にまでなって、まだ私にしつこく構うんだもの…もう私も、大概中也さんから離れられなくなってるから』
そんな一言にすら、異常な程の安心感に見舞われる。
まさか、相手からの感情をこれ程までに繊細に受け取ってしまうことになるなんて。
「お前…本当、人間出来てるわ…」
『…ごめんね…、……ごめんなさい…』
「謝んな…今謝られるとすげえ辛いんだわこれ、お前なら分かんだろ」
『……じゃあ、ありがとう…』
私を解放してくれて。
私と同じものを、本当に分けっこして背負ってくれてしまって。
彼女は俺を抱きしめながらそう言っていた。
…まさか、こんなにも胸に刺さるだなんて思いもしなかった。
だからこそ、こいつは死にたがっていたのだろう。
想像を絶するレベルだ、これは。
ごめんの一言にも、胸を抉られるほどの共感をしてしまう。
これが、もしも柳沢から浴びせられ続けた暴言なら…?
俺はまだいいが、それを何もこの世界の外のことを知らなかった蝶が…
考えただけでも胸がしめつけられた。
