第20章 家族というもの
「いらっしゃいま…あっ!」
「よぉ、悠馬。蝶と立原来てねえか?」
「はい、そちらの席に!」
「!中原さん戻ってきたみてぇだぞ」
立原からも中也の方からも、少し、どことなく嬉しそうな声を受け取った。
しかし、そんな相手に対して私は素直に喜ばず、顔を顰めるのである。
腕組みをして頬を膨らませ、脚を組んだ態度に、目の前にやってきた中也…並びに目の前の立原、磯貝君がぎょっとする。
「…え、っと……蝶…さん?」
『何です?中也さん』
「怒ってらっしゃいます……よね」
『別に?』
私の別にという口癖が余程苦手なのか、中也は更に顔を青くさせた。
「ち、蝶…?お前中原さんに何をそんなに怒って…」
『……中也さん女の人にくっつかれたでしょ』
「…お前が心配するような事は何もねえけど…確かに接触はあった」
「は?…えっ、なんでお前分かんのそんな事!?」
『嫌な虫の匂いがする』
「嫌な虫って…」
中也が店に入ってきた時から漂ってきた嫌な匂い。
女の人特有の…それも大人の人が付けるような、甘い甘い香水の。
「蝶は嗅覚がいいからな……けど蝶、本当に俺何もしてねえしされてねえから。な?」
『太宰さんとお話しててなんで“私の知らない”女の人の匂いがそんなにこびりついてるの?』
「そんなにって…そんなにすごい匂いがすんのか?山を降りてる最中にすれ違って、そん時に相手が足踏み違えてこっちと衝突しちまっただけなんだが…」
てっきりあの教室で雇われてる殺し屋かだれかかと。
中也の表情からも声からも態度からも、嘘は見受けられない…というより、この人が私にそんなしょうもない嘘をつくようなことはない。
『ふぅん…まあそれならい……っ、何…?』
目をそらそうとしたところでフワ、と頭に乗せられる手。
それから近くに寄せられた顔に、思わず戸惑って腕組みをとく。
「……いや、心配させたから」
『!?…え……あ、うん…』
こんな事でそんな風にしてくれるなんて。
まだ慣れない…真摯に想ってくれる事に戸惑ってしまう。
「あの野郎もとっとと追っ払ってきたし、もう後はゆっくり出来るぞ…蝶も学祭頑張ってたし、今日はゆっくりしてもいいだろ」
『ゆ、っくり…?』
「…今日の夕食、及びデザートは俺のスペシャルコースでいかがです?」
『……!!は、い…お願い、します…!』
