第20章 家族というもの
夕食を終えて片付けて……それからぼうっとソファで中也が作業を終えるのを待つ。
結局は洗い物まですると言い切ってしまうものだから、本当に彼の言った通り、ゆっくりさせられてしまったのだが。
太宰さんがあんなこと蒸し返してきたからだ…妙に、色んな人の頭が脳裏にちらつく。
『…中也さん……』
「!……どうした?」
水を止めて、手を拭いてからこちらに歩いてきてくれた。
聞こえるなんて思ってなくて、ふと無意識に漏らしていた彼の名前に口を小さくあける。
『ぁ……いや、その…』
「…何か、あるんだろ?また中也“さん”って呼んでる」
『!!……う、ううん、何でも…なくて…その…』
この感覚、いつぶりだろう。
素直になれない私のダメなところ。
この人が相手だからこそ、甘えられない状況。
「………何言われても怒らねえよ、俺は」
『え…?』
「お前、またどこかにいなくなっちまうような表情してる…そっくりだ、あの頃と。俺の中でも軽くトラウマもんになっててよ…だから今はよぉく分かる、蝶が俺に遠慮してる顔」
そう言う彼の指す私の表情とは…あの頃というのは、いつの事か。
なんとなく分かった、トラウマものだなんて言う意味が。
そっか、それで中也はすぐに分かっちゃうんだ、私のこと。
「どうせ今日の事だ、太宰の糞野郎絡みか…織田かトウェイン絡みの事だろ」
当然のように言い当てられて目を見開いた。
そんなにあっさり…?
いや、でも彼の言う通り、私がそんな顔をしていたのか…?
『……寂しいの、引きずってるって言ったら…どうする…?』
「…どうしてほしい?…お前がしてほしいと思うようにするが?俺は」
『ッン…、…ぁ…っ、擽った…ぃ…っ』
頬に手を添えられ、それと一緒に見つめられて、恥ずかしくなってくる。
今回は変に擽るような触り方をされてるわけじゃないのに…なんでだろ。
「……人一倍そこんところは思いつめちまう奴だって事は、俺がちゃんと分かってる。そこを咎めはしねえよ…けど、ちゃんと言えるようになったのはまあ喜ばしい事だ」
ふ、と笑った表情に熱くなる。
何なんだろう、立場も何もかも、私がお世話になりすぎていて、中也の方がずっとずっと上なはずなのに。
この人はどうして、こんなにも私を対等に扱ってくれるのか。
それどころか、どうしてこう…私に傅いてしまうのか。
