第20章 家族というもの
「今更な事だろそんな事…それをこいつの前でわざわざ言って、手前はどうしたいっつってんだよ」
私を後ろに隠すように前に中也が出る。
「いや?君がどう思うのかと思ってさ。興味が湧いただけなのだよ…あの時蝶ちゃんの事をおいて身を潜めてしまった私も私だけれど………君がどうしていたのかなって」
渚君のお母さんと話していてふと思ったんだ。
にこりと微笑む太宰さんの目は笑っていない。
なんで、こんなところで……今日に限って、こんな言い合いするの二人共。
私が悟らせたから?
それに、織田作の気持ちを知ってた…?
それなら、なんで教えてくれなかった?
……なんで、私はもっと早くに知っていたかった?
「俺は手前の考えていた通り、こいつが話しにくいのに気が回せなくて、結局傍に自分からいてやれなかった…蝶に非は無い、それで十分だろ」
「…じゃあ質問を変えようか。君、いつから蝶ちゃんの事好きだったの?……いつから、私の親友にやきもちを妬くようになってたの?」
『……もういいでしょ太宰さん、中也にこそ非は何も無い。寧ろ気付けなかった私が悪「違うよ蝶ちゃん、中也は君と、君の周りのことはよく見てる…それに馬鹿だけど、ただの阿呆じゃあない」…何を…』
「君さ、実は蝶ちゃんよりも早くに気付いていたんじゃあないのかい?……知ってて、知った上で、最後の最期までこの子に何も教えなかったんじゃあないのかい?」
織田作の気持ちを。
彼から少し、ほんの少しだけ私に伝えられようとしていた、隠し通されるはずだった恋心を。
「……蝶、立原とどこか風に当たらないような屋内にでも行っておけ…話が終わったらすぐに迎えに行くから」
『え……い、や…中也?…大丈夫、だよ?中也が悪い事なんて何も「いいから。…お前の仕事先を荒らすようなことはしねえよ、安心しろ。ちょっと喧嘩するだけだ」…怪我しないで…怪我、あんまりさせないで』
太宰さんに面と向かって言う勇気は無い。
戸惑いつつも、私は抜きで話がしたいのだと察した。
分かった、太宰さんがわざわざ私の目の前で織田作の事を皮切りに話を始めた理由が。
なんでなのか…なんで中也を必要以上に煽るのか。
なんで、そんなどうにもならないことで口論を始めようとしたのか。
『いくよ立原』
「いくって…いいの『いい、多分二人で話がある』…」
不器用なんだから二人共。
