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第20章 家族というもの


トウェインさんが山を降りていってから、立原がこちらに歩いてきた。

「お前、中原さん以外の事でも泣くんだな」

『…デリカシーないわね相変わらず』

「……よかったのか?お前がこっちにいてくれっつったら、多分あいつならいてくれんだろ」

『トウェインさんにも向こうで生活あるんだから…家族だっているだろうし。元々会うはずがなかったところなんだから……いい人、なのになぁ…』

なんでいい人に出会っちゃうんだろう。

「…蝶、今は考えなくてもいい……あの野郎のことだ、糞太宰みたく驚異的な生命力でお前にしつこくまとわりついてくるさ」

『中也さ…だって……だ、って…ま、た私……もう…』

「……約束忘れてねえな?そん時ゃそん時で、俺がちゃんとついててやるから…今は考えなくていい。お前が泣いてっと、あいつの性格じゃ余計めそめそすると思うぞ」

腰を屈めて目を合わされ、それで少しだけ泣き止んだ。

そうだった…今までみたいに、もう独りにならなくてもいいんだ。
泣かせてくれる人が、ちゃんと一緒にいてくれるんだ。

『…中也が約束破ったら、私が中也の事殺すから』

「おお、俺には偉く怖い言葉使ってくるようになったなお前?」

『……裏切ったら殺してやる。長く悶え苦しんでじっくりゆっくり殺してやる』

ぽす、と軽い音を立てて、私の弱々しい拳が中也のお腹に当たってそのまま落ちる。

「中原さん相手にんな事言えんのこの世でお前くらいだろ…すげえな」

「まあ、特別だ……立原、俺がもしこいつの事を裏切るようなことでもありゃあ、それはこの地球が滅びる時だとでも思っとけ。まあ俺に限ってそんな事は起こりえないだろうが…俺が蝶を手放すような時は、そんな時だ」

シン、と周りの空気が静かになる。
それに合わせて少し冷えたような気さえした。

けど、これだけ無茶なこと言ってるのにやっぱり優しいんだこの人。
自分から進んでろくでもない約束を私と交わしただけの事はある。

まだ本気なんだ。
本気で人間やめるつもりなんだ。

「……お前幹部になに誓わせたんだよ?」

『…内緒。立原が聞いたら怖がって泣いちゃうだろうから』

「てめえが俺のことをバカにしてるってことだけはよく伝わったよおい」

「いいか?この女との約束は死んでも守れよ、立原?」

『…それ中也だけね。私を拾った罪は重いのよ』

「……そうか」
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