第11章 縁というもの
中也さんの一つ目という発言にきょと、と目を丸くする。
運転席の方に目をやってジィ、と中也さんを少し見上げるように見ると、中也さんの方からなんだよ、と呟かれた。
『う、ううん……一つ目?』
「あ?…ああ、そういう事か。一つ目だよ、当たり前だろ。金属といえども流石に永遠に残るもんじゃねえんだ、様子を見ながらまた新しくするさ」
『えっ、指輪ってそんなに買いかえるもの??私そんな酷い扱いしないよ?』
言った途端にプッ、と吹き出される始末。
どういう事だ、結婚指輪って丈夫に出来てるものでしょう?
そんな買い換えるようなものじゃあないはずなのに。
「お前、分かってねえなぁ…ついさっき探偵社でどこにも行かねえっつったばっかだろうが。これからどんだけ一緒にいる覚悟してると思ってんだよ」
『!!そ、そういう事…中也さん抱きついていい?』
「待て、流石に運転中だお前が危ねぇ」
『じゃあちゅーは「お願いします澪さん、せめてブレーキ踏むまで待ってください」…外で呼ばなくてもいいのに』
今甘えに来てる奴が何言ってんだよ、と返され、嬉しくないわけでもないため大人しくなった。
マリッジリングを買い換えなくちゃならなくなるくらいに一緒にいると宣言されて、理屈ばかり考えていられない。
そんな風に好きな人から言われて、嬉しくならないはずがない。
『……やっぱり抱きついて「ダメだ」…く、車と蝶とどっちが好き?』
我ながらなんという台詞だろうか。
どこかのドラマか何かで聞いたことのあるような台詞をここで使ってみる。
普段から使ってたら流石の中也さんにも鬱陶しがられるだろうけれど、今はそれ程に抱きつきたいのを堪えているんだから。
「車とお前とか言うまでもねえだろ…お前の方が好きだから、とりあえず止まるまで我慢してろ。もし事故でもしてお前に何かあったらいけねえから」
『へ、ぇ…言うようになりましたね中也さんのくせに』
「照れてるくせして言ってんじゃねえよ」
左手を離してポンポン、と頭を撫でられ、再び大人しくなった。
ずるい、今私からいくのはダメなのに。
せめてもの抵抗…というよりは条件反射で、中也さんの手に少しだけ擦り寄る。
すると今度は手が大きく動いて撫で方を変える。
それにまた機嫌を良くして、頬を緩めた。
「単純」
『えへへ…』
「可愛いのも大概罪だぞ」
