第11章 縁というもの
『ち、ちょっと付き合えってどこに……ま、待って、中也さん近寄ってきたらなんかろくな事ない気がする!!』
「なんだよその言い草…つかここ誰もいねえじゃねえか。一人でいるんじゃねえよ、心配すんだろ」
ツカツカとこちらに寄ってくる中也さんから目を逸らして、デスクに当たるくらいまで椅子で後ずさった。
『心配って、下に皆いるし……っ』
ポス、と頭に手が置かれて、グリグリと強めに撫でつけられる。
え、何、本当に何しに来たのこの人。
ちょっとネガティブになってる時にこういう事されると困るんだけど私。
「外に出なかったのはまあ偉かったな。とりあえずちょっと付き合え」
『ち、ちょっと付き合えってどこにですか!?もう夕方ですし、これから行くって言っても…ッ、ン……っ、』
頭を撫でていなかった方のてで顎を少し持ち上げられ、そのままキスが落とされた。
突然の事態な上にここは探偵社だ、流石に焦りすぎて目を見開いて少し腕で抵抗する。
しかし少し長いそのキスに、結局何にも抗えなくなった。
あったかいの…心地いいの。
中也さんとするの、好き……もう、身体が好きだって覚えてる。
逆らえなくなってる。
少し屈んだ中也さんの外套をキュ、と掴んでいると、中也さんはゆっくりと唇を離して私を抱きしめる。
来てくれた。
頭の中をそれが埋め尽くして、何も考えず、ただいつものように彼に腕を回す。
「……お前はここまでしてやっと自分から来てくれるようになる」
『人の勤め先で…あんま、しないで』
「いいじゃねえか、人いねえんだし。嫌いじゃねえだろ」
『…好き』
スイッチ入ったかい、澪さんよ。
耳打ちされてピクリと反応してしまいつつも、コク、と控えめに頷いて答えた。
「てか、付き合えってどこにって質問野暮じゃねえか?決まってんだろ、良い店見つけといたから見に行くんだよ」
『い、いいお店……?』
「お前…………いらねえのか?指輪」
『!!い、今から行くの…?』
「予定よりちょっと早いが、まあ早いに越したことはねえだろ。ぼさっとしてねえでとっとと用意しやがれ…甘えたくなったら俺んところにこればいいから」
中也さんの呟きにビクッと肩が揺れた。
この人どこから聞いてたんだろ、私の独り言。
『…中也さん』
「ん?」
『どこにも行かない?』
「行かねえよ、心配すんな馬鹿」
