第11章 縁というもの
私の言葉にきょとんとする敦君。
「ああ、今の話聞いてようやくちょっと分かった…ありゃ、探偵社に太宰がいなかったら今頃そうなってた可能性もあったんだろうねぇ」
「あー……確かに。あれでもまだましな方だったんなら想像がつかないこともないですね」
他は皆、探偵社に来たばかりの頃の蝶ちゃんを見てきたから納得している様子。
私に泣きつくのも怯えていたようなあの子だったしね。
「あれだよ敦君。蝶ちゃんは半年…今はもう数ヶ月前になるか。探偵社に来てからね?実験の影響でまた怖がりになっちゃってて、元の調子に戻るのにもちょっと時間がかかっていたのだよ」
「今は……というか話を聞く限りでは中原さんと再会してから?ここ最近は今まで見なかったくらいによく笑う子になったらしいんだけど、それまではまあ心配になるくらいに色々溜め込んでたからね」
「飯をまともに食べてるところも見た事なかったよねえ?まさかあんなに甘い物食べるだなんて思ってもなかったよ」
谷崎君と与謝野先生からも話される何ヶ月か前までの蝶ちゃんの様子について、敦君はもう本当に想像がつかないらしい。
私でも思う、本当によくあんな子に育ってくれたものだ。
織田作あってこその今の蝶ちゃんではあるだろうけれど…やはり中也の存在が大きすぎる。
もしあいつが真正面から蝶ちゃんにぶつかっていくような奴じゃなかったら。
もしも変わらず、蝶ちゃんと出会っていない当初のままだったなら。
彼女はあんなに笑顔を見せてくれる子には育たなかっただろう。
織田作は分かっていたのかもしれない。
分かっていたから、中也に全てを任せて助言をしていっていたのだろう。
幼くてまだまだ子供になれなかった、矛盾しすぎた歪な存在のあの子…あの子はただ一人、自分を救ってくれたあいつに認められたかったのだと。
どうしてか自分を見つけ出して関わろうとしてくる人間に…どうしてか愛情のようなものを注ごうと不器用にぶつかってくるあの人間に、どうしようもなく縋り付きたかったのだと。
ただただ自分を見て、知って、無償の愛を注いで欲しかったのだと。
織田作之助……私の友達、唯一無二の親友。
____何言ってる、あいつが可愛いらしいのは最初からだろう
「今となっては可愛いものさ。まあ最初から可愛らしいものだったのだけれどね」
「なんていうか、皆の妹みたいですね」
