第11章 縁というもの
「……大丈夫!その分私と帽子置き場とがいっぱい蝶ちゃんの事可愛がってあげてるから!」
『…………そうですね、ありがとうございます。あ、でもしつこすぎるのは勘弁して下さいね?一応私、これでも太宰さんより大人ですし…ちょっとお仕事忘れてたんで事務所の方先にもどりますね、ご馳走様でした』
レジでお金を払ってから歩いてうずまきを出る蝶ちゃん。
与謝野先生や谷崎君、敦君は突然の蝶ちゃんの行動にえっ!?と蝶ちゃんを目で追っている。
そりゃあそうだろう、いきなり…それも蝶ちゃんが席を外すだなんて、今日は考えられない事なのだから。
やってしまった。
そうか、彼女は知らなかったのか、織田作がどれ程彼女の事を可愛がっていたのかを。
まあ、彼女が知らずに織田作と会えなくなってしまった責任の一端は私にもあるのだろうけれど。
「蝶の奴、仕事忘れてたって…」
「珍しいですよね、蝶ちゃんあんなにしっかりしてるのに」
「いやいや敦君、蝶ちゃん今日、もう仕事終わってるよ?」
「ええ!?じゃあなんでまた事務所なんかに!?」
まさか国木田さんの仕事熱が移った…?なんて声が上がりもするけれど、多分皆分かっているのだろう。
織田作の話を特別誰かに話した事も無ければ、蝶ちゃん絡みの話で説明した事もまあ無い。
今の蝶ちゃんの歳から考えてみればまあかなり離れてはいたが…あの子の心を誰よりも早く掴んでいたのは彼である。
そして彼のおかげでなんとか中也とも信頼関係が築け、今となっては恋仲にまで発展し……蝶ちゃんにとっては突然亡くなってしまった大事な大事な兄のような存在だろうけれど。
「……まだ生きてたら、分からなかっただろうなぁ…」
蝶ちゃんは言っても大人だし。
元々の彼女のタイプは、恐らくああいった男である。
中也なんかは以ての外、あいつは蝶ちゃんと出会ってから段々と今のように変わっていった。
彼女自身の経緯から幼少期は恋人を作ろうなんて気持ちも、恋愛感情だなんてものも知らなかっただろうし。
「分からなかったって?」
「いや、まあ…すみません与謝野先生。でもやっぱり違いますね、うん」
「さっきから何を言っているんだいあんたは…」
「お気になさらず……それより蝶ちゃんの話でもしていいですか!?」
運命なのか何なのか。
どの道あの蛞蝓とこうなっていたような気はするかぁ…。
