第15章 タイガーリリー
濡れた髪が額に貼りついてる。
それをどけながら和也の目を覗き込んだ。
「翔…?本当に覚えてないの…?」
「だから、なんのことだよ?」
「…いや、なんでもない…」
湯船の淵を掴んで、和也は勢い良く立ちあがった。
「先、上がってるね」
そう言って俺に背を向けて出ていった。
なんのことだ…?
後を追って出ると、バスローブを羽織った和也が俺にバスタオルを渡してくれた。
身体を拭いてバスローブを羽織ると、髪を乾かしてる和也の隣に立つ。
「和也…?」
ドライヤーの音で聞こえないのか、返事をしない。
目はぼんやりと鏡の中の自分を見ている。
さっき俺を抱いた男は思えないくらい、儚くて…
消えそうだった。
それから和也は口数が少なくなって…
少し遠い目をするようになった。
一体何でそんな風になってしまったのかわからなくて、何度も聞いてみるんだけど曖昧に笑うだけで何も答えてはくれなかった。
時々、俺を抱きしめて少し泣く。
本当にどうしていいかわからなかった。
ただ和也の身体を抱きしめて、嗚咽が止むのを待っているしかなかった。
和也が口を開いてくれるのを待つしか、なかったんだ…