第15章 タイガーリリー
「まじで冗談やめてよ…たまたま近くで仕事終わったからさ、マネージャーに聞いて寄らせてもらったよ」
「え…?」
そいつは傍らの椅子に勝手に座った。
時計をみたら、もう随分遅い時間だった。
「面会時間ギリギリだったよ…よかった顔見れて」
病室のドアが開いて、母さんが入ってきた。
手には花を活けた花瓶を持っていた。
「あ、翔…目が覚めた?花貰ったわよ」
「母さん…」
「ニノごめんね、わざわざ…」
「いえいえ…ほんとたまたま近くで仕事終わったんで…」
ニノ…?
この人ニノっていうの…?
「に…の…」
「ん?」
色白の顔は俺を見た。
「え…?ホント、どうしたの?翔ちゃん」
どうしても、思い出せなかった。
次の日、医師に検査結果を聞いた。
「とりあえずはコブができてる以外は、異常はありませんね…なにか気になることは?」
そう聞かれて、ニノという人のことがどうしても思い出せない話をした。
医師はちょっと険しい顔をして、話を聞いていた。
「多分…一時的なものだとは思いますが…」
そう言って、もう一人違う医師を呼んだ。
その人に改めて問診をされた。
母さんが立ち会ってその話を聞いていたが、どうやら抜け落ちているのは、ニノという人の記憶だけのようだった。