第11章 グレイscene4
「うわーやべー!気持ちいい!」
「しょっぱーい!」
「そらしょっぱいに決まってるでしょ!」
ふたりでばしゃばしゃ泳ぎながら、時々目を合わせてふふっと微笑む。
おっといけない、競争だった。
「あのブイに先についたほうが、王様ねっ!」
「えっ…ちょっ」
俺は智くんを置いて、全力クロールした。
実はそんなに得意ではないが、アドバンテージを十分とったので、ブイに先着できた。
浮き輪って、早く泳ぐには邪魔だからね。
「翔ちゃんずるいぃ~…」
「だって競争だって言ったでしょ」
ブイは浴場の一番端にあって。
若い人が少なかったから、深いこの付近には誰も居なかった。
「もうっ…浮き輪邪魔なんだもん…」
ぶつぶつ言いながら浮き輪に掴まっている智くんは、この世のものとは思えないほど可愛かった。
ふいに、智くんの足が俺に当たった。
かと思うと、するりと足は絡んできた。
「智くん…」
「んふ…誰もいないから、ちょっとくらいいいよね?」
海の中は、誰にも見えない。
だから…
智くんは手を伸ばして、きゅっと俺と手を繋いだ。
「一回…外で手を繋ぎたかったんだ…」
きゅっと…
心臓が締め付けられた。
「智くん…」
俺も手を握り返すと、智くんははにかんだ笑みを俺に向けた。
「翔ちゃん…大好きだよ…」