第11章 グレイscene4
『あ、智くん?』
久々の電話。
俺はオフで家に居た。
あの時みたいに、雨が多い夏。
『仕事ね、午前中で終わっちゃったんだ。行ってもいい?』
心なしか弾んだ声。
「…いいよ…待ってる…」
描きかけの絵の前に、筆を置いた。
手についたアクリルを流そうと洗面所に立つ。
鼻の頭にまでアクリルがついてた。
よく見ると腕にも足にも。
翔は家の鍵を持っているから、待たずにシャワーをすることにした。
そのまま服を脱ぎ捨て、洗濯機に放り込むと浴室に入った。
身体を流し終わり、バスローブを羽織ってリビングに戻るけど、まだ翔は来ていなかった。
髪を拭いていたら、玄関のチャイムが鳴った。
モニターを見ると翔が立っていた。
「どうしたの?」
玄関の扉を開けると、そこにはびしょ濡れの翔が居た。
「急な雨でさ…タクシー近くで降りたんだけど、ビショ濡れ…」
そう言って苦笑いする翔のシャツは肌に貼り付いてて。
下に見える皮膚が、俺を熱くさせた。
「早く…入りなよ」
「ん…それ、貸して?」
俺の首に掛かってるバスタオルを、翔はするりと抜き取った。
玄関の叩きの上で、翔は髪を拭き始めた。
翔の身体から滴る雨の雫は、叩きにぽつぽつと染みを作った。