第9章 退紅(あらそめ)scene3
離れないと、離さないと言ってくれたから…
やっと俺は目が開いた気がした。
専務から話があったあの瞬間から、俺の目は閉じていたんだ。
今まで智くんのなにを見てきたんだろう…
でもあの事実は、俺の胸に突き刺さった。
彼女…そう取られてもおかしくない程濃密な関係だった。
「智くん…もう俺、逃げないからちゃんと話してくれる?」
「うん…」
風呂に入ってバスローブを羽織って…
リビングのソファーに腰掛けた。
缶ビールを二本持ってきて、テーブルに置いた。
もう外は明るくなっている。
「あの事件の後…何年も会ってなかった…」
ぽつり、智くんが語りだした…
「わかってると思うけど…俺はあいつを殺したよ」
あのフリーライターを殺した後…
あれは事故死だとされたけど、用心するに越したことはない。
だから連絡先も捨てたし、お互いの証拠は隠滅した。
それが去年、意外なところで出会った。
上島さんに連れて行ってもらった、タレント崩れが接客するバーだ。
そこに彼女は居た。
智くんは知らなかったけど、彼女はあのあと売れないタレントをやっていたのだ。
長年の夢だったそうだ。
だから…あの弱みをどうしても取り返す必要があった。
だけど去年、事務所を辞めてしまっていた。