第9章 退紅(あらそめ)scene3
「翔くん…嘘つかないで…」
「え?」
「俺にはわかる…」
握った手を振りほどかれた。
「そんなことしなきゃいけないほど…俺は翔くんを追い詰めたの…?」
「え…何いってんの?智くん…」
「俺のこと、殴ればいい…罵倒すればいい…」
「いやいや…なんでそんなこと…」
「もう、そんなことする価値もないの?」
「いや、だってそこまで怒れないよ…こんな記事じゃ…」
智くんが俺の顔を見た。
目が、揺らいだ。
「智くん…いいから、ね?もう気にしないの…」
テーブルに置いていた缶を手にとって智くんに手渡した。
「でも、事前に言っておいてよね。結婚するとかさ。いきなり来るとびっくりするじゃん」
笑いながら言うと、智くんは手から缶を落としてしまった。
「翔くん…」
「ど…どうしたの?智くん…」
俺を見つめる目からぽろぽろ涙が溢れてきた。
「もう…俺のこと…じゃ…の?」
なんとか振り絞った声は、最後の方は何を言っているのか聞き取れなかった。
そのまま智くんは部屋を出て行った。
ソファに座ったまま、俺はそれを見送った。
缶ビールがじゅうたんの上に転がっていた。