第9章 退紅(あらそめ)scene3
「櫻井さんっ…櫻井さんっ…」
気づいたら、知らないところに居た。
喋ろうと思ったら、喉が貼り付いたようになってて声が出ない。
「目が…目を開けましたっ…」
俺のマネージャーの酷くうろたえた声がする。
壁のスピーカーに向かって喋ってる。
ここは…病院…?
「櫻井さんっ…なんで…なんであんなことっ…」
泣きながら、俺の手をにぎるその手は酷く熱かった。
喋ろうにも酸素マスクが付いていて…
喉も熱い。
なんとか手を握り返すと、マネージャーは少し安心した顔をした。
「昨日、風呂で水を浴びたまま寝てたんですよ…」
覚えがなかった。
風呂で泣いていたのは覚えている。
その後のことは何も思い出せなかった。
「手に…カミソリを握ってました…ほんと、もう…」
そう言ったまま、マネージャーは俯いてしまった。
その後、医者が来て注射を打ったりしてくれたら、なんとか喋れるようになった。
強い薬をもらってホテルに戻り、そのままスタジアムに行った。
楽屋に入ると、ソファに智くんが寝かされていた。
黙って荷物を置くと、俺は楽屋を出た。
背中に、智くんの声が聞こえた。
「翔くん…」