第9章 退紅(あらそめ)scene3
ホテルの部屋に帰り、持ってきた荷物を整理して風呂に入る。
いつもだったら、智くんが遊びに来て…
朝まで一緒に一つのベッドに眠って…
シャワーを浴びながら涙が出てくるのを堪えきれなくなった。
声を殺しながら、いつまでもいつまでも俺は泣き続けた。
ずっと…好きだった…
どんなことがあっても…
でも今回のはだめだ…
もう俺達は三十代も半ばで、そろそろ結婚っていう文字も意識する…一般の人よりも時期は遅いけど、俺たちの職業からしたら、ちょうどそんな時期だ。
相手の娘…智くんより10歳年下だって…
泣きながら笑えてきた。
何に嫉妬する?
嫉妬しようがないじゃないか。
だって相手は女だ。
俺は男
天地がひっくり返ったって敵わないじゃないか…
俺は智くんになにもあげられないのだから。
新しい命も…その生命の作り出す、次の命も。
考えなかったわけじゃない…
だけど、俺は智くんさえ居ればいい。
智くんもそうなのだと、思い込んでた。
俺を愛するあまり、人を殺すほどの強い気持ちを…
俺は疑ってなかったんだ…
それがこんなに脆く崩れ去るなんて、俺は昨日まで考えたこともなかった。
浴槽にしゃがみ込み、いつまでも流れ出る水に打たれて、俺は眠った。