第7章 ショコラscene3
奥さんは手を頬に当てた。
「例えばね…以前相葉さんに憑いていた遊女さんね…」
彼女の願いは、ただ、恋しい人と契ることだった。
百年以上霊魂として彷徨っていた彼女の願いはごくシンプルだったと言うのだ。
「その点、生霊はまだ生きてる人間ですからね…そりゃあ、生々しいですよ…人間の欲望が剥き出しですからね…」
霊魂だけ身体から離れると、理性ってもんがなくなるということだ。
肉体に宿って脳で考えているからこそ、理性は働くらしい。
「例えば…彼女の…美々子さんの願い…」
「それは…?」
その時、部屋の襖が開いた。
「相葉さん、スケジュールの件は了承頂きました。一週間休暇を頂けました」
「ほんとですか!?」
すげえ…俺が言ってもきっとだめだったろうな…
でも翔ちゃんなら…俺よりも上手く交渉するだろう…
「あ…翔ちゃんは…?」
「まだ眠っていますよ。相当、櫻井さんの肉体は消耗していますから…深く眠ってもらっています」
先生はニッコリ笑うと、俺の前に大福が乗った小皿を差し出した。
「さ、それを食べたら打ち合わせをしましょう」
奥さんが急須にポットからお湯を入れた。
…本当に素敵なご夫婦だな…
ちょっとだけ、涙が滲んだ。