第37章 哀婉
その人は、キセルを手に窓から外を眺めてた。
サイズの合っていないダボダボの白いシャツを素肌に纏っている。
下にはなにも履いておらず、情事の後を隠そうともしない。
「あの人…」
「ああ、うちでナンバーワンだよ」
にやりと支配人が笑うから、思わず彼を指名した。
「智!日本人がご指名だよ!」
カタコトの日本語で、支配人が呼びかける。
彼はうっそりと顔を上げた。
俺を見ると、微笑んだ。
その笑みに引きこまれた。
「今日、あいつ2人めだけどいい?ガバガバだよ?」
「いいって…彼を抱きたい」
支配人に一晩分の料金を払った。
「わお…一晩貸し切り?」
「ああ…彼と一晩居たい」
「イイヨ。じゃあごゆっくり」
”智”の手を引いて、言われた部屋へ入る。
この娼館で一番いい部屋だった。
ここは上海の日本租界。
俺は毎日、上海と日本を往復している船の会社に勤めてて、今日から上海勤務になった。
日本では最近、大戦の景気も落ちてきて、大陸へ進出しようという動きが加速してる。
俺は上海の支店を強化する目的で投入される。
明日から憂鬱な勤務が始まる。