第23章 Sad Monster【ドリフターズ】
「土方殿は私より後の時代を生きた御方ですから
家定御台所の篤子を御存知でしょう?」
篤子……
十三代将軍徳川家定公の正室、篤姫。
後の天璋院か。
天璋院には俺達新撰組も苦い思いを抱いた。
慶喜公助命の為に島津や西郷に頭を下げ、その結果、江戸城無血開城という偉業に一役買った女傑だ。
だがそれは、最後の最期まで戦い抜こうとしていた俺達を無視した行為。
その時にこそ俺達は、徳川幕府に見捨てられたのだと愕然としたのだ。
しかし、は徳川幕府の引き際を知らぬ筈……
「篤子は島津斉彬の娘として家定公に輿入れしました。」
………そうだ。
天璋院は薩摩の、島津の出。
だからこそ島津を心酔していた西郷も天璋院には傅いたと聞く。
「養女……ですけどね。」
ここで初めて、の笑顔が僅かに歪んだ。
そうか……
確かにそうだ。
天璋院は薩摩藩九代藩主島津斉宣の孫に当る女だが、島津斉彬の実子では無かった。
「可笑しな話ですよね。
斉彬には五人もの娘が居たのに。
どうして態々…って思いますよね?」
いつもは柔らかく響くの声が刺々しく変わる。
こんなを見せられている事に、俺は何も言えず只々耳を傾けていた。