第23章 Sad Monster【ドリフターズ】
「………何だ?
俺と一戦交える気になったか?」
「お前(まあ)は、こいで良かか?」
「………は?」
「土方はこいで良かと聞いちょる。」
「何を……
言っているのか分からんな。」
暫くの沈黙。
島津が注ぐ俺の腹の底を探る様な視線が酷く痛い。
「はン!
今の貴様(きさん)はやはり牙を抜かれた野良犬よ!
俺(おい)と首の獲り合いがしたくば
またあの鋭い狂狼に戻って懸かって来(く)い!」
こうして島津も俺を置いて去って行った。
「ふ……」
余りに惨めな自分の姿に嘲笑が漏れる。
その惨めさを上塗りする如く、降り出した雨が俺の全身を叩き始めた。
「憎い相手を殺しも出来ず、
その相手に殺しても貰えず……か。
ああ……独りだ。」
そうだ。
俺はずっと独りだった。
呼んでも呼んでも来やしねえ……誰も。
あんなに一緒に戦ったのに。
最期の仲間だと思ってた奴等は、俺だけを遺して逃げて行った。
そして、そんな俺の傍で笑ってくれた女も………
「う゛ああああああああッッーーーー!!!」
血を吐く様な叫喚も、たった独りでは虚しく響くだけ。
抜き身の兼定を鞘へ収めもせず立ち尽くし、冷たい雨に濡れそぼつ俺は……
とことんまで《独り》だったのだ。