第23章 Sad Monster【ドリフターズ】
それから、俺の生きた時代との生きた時代についても互いに語った。
どうやらはまだ父御……
島津斉彬が生きている時代から飛ばされて来たらしい。
徳川家定が現在の将軍だと認識しているあたり、まだ俺が多摩の試衛館で勇さん達と野心に突き動かされながらも燻っていた頃か?
そうなりゃ当然、は《新撰組の土方歳三》を知らない。
島津斉彬の歿後、幕府と薩摩が繰り広げる残酷な動乱を知らない。
俺が薩摩を、島津を心底恨み憎んでいる事を………知らない。
この唾棄すべき醜い心内を伝えたら、は俺を蔑むだろうか?
俺を嫌うだろうか?
俺の元から去るだろうか?
それを恐れるなんて、まるで《人間》じゃねえか……
《化物》の自分をそう嘲笑してみるが、どうしてもには島津と俺の因縁を語れなかった。
「私は土方殿が居れば、それだけで良いのです。」
は何度もこう言った。
と真面に会話出来るのが俺だけだから、俺が用意しなければは食う物も無いのだから……
そんな事は分かりきっている程に分かっている。
だが俺の目を真っ直ぐに見つめ、桜色に染まった頬を綻ばせ可憐に微笑むこの女を、突き放せる奴が居るのならば教えてくれ。
その日もが好みそうな食い物を用意してを匿っている場所へ向かうと、其処に居たのは………
「おうッ!!
久方振りだの!」
俺の行く手を阻む様に腕を組んで仁王立ちした……
島津豊久だった。