第44章 ・スマホと大切なもの
「そんな事はありません、兄様。音楽を長く聞きたい時はこちらを使えばスマホの電池は通信用に温存できます。それにスマホが通話中でふさがってる時のメモにも使えます。」
「そうか。」
「万一スマホで何かあってもこちらでメモを取っていたならその分は無事で済みますし。」
「そうか。」
「それに」
ここで文緒は入れようとしていた携帯型映像機器をキュッと握りしめる。
「これは亡くなった父からもらったものです。本当に壊れてしまうまで手離せません。」
若利はハッとした。
「そうだったな。」
切なそうな顔をする文緒の肩をそっと抱く。
「すまん。」
「謝られる事などありません。」
文緒が微笑んだ所で母がそろそろ行こうと呟いた。
家に帰ってから文緒はスマホのセットアップに専念していた。若利は横に座り込んでその様子を見ていたのだが思うよりすんなりと事は進み、文緒は取り急ぎ必要なアプリを整えて早速文芸部仲間や瀬見、五色辺りにメッセージを飛ばしたりしていた。