第44章 ・スマホと大切なもの
後日である。
「文緒、何とかスマホに変えられたみたいだな。」
朝の部室で瀬見が言う。
「ああ。」
「結構手間取るかと思ったけど。」
「操作には戸惑っているようだが慣れれば問題ないだろう。」
「そっか。」
「それでもしばらく色々聞いてくると思うが堪えてやってほしい。」
「大丈夫ですっ。」
何故かここで五色が胸を張る。
「でもあいつ、今まで持ってたあの薄い端末どうするんですか。」
五色の問いに若利は静かに答えた。
「本当に壊れるまで使うと言っている。」
「スマホにしたのに。」
「音楽やメモにはあれを使うそうだ。スマホの電池を温存する算段らしい。」
「へー、さりげに考えてるんだねえ。」
「確かにスマホは気をつけないとあっという間に電池なくなるしな。」
天童がニヤニヤし大平が納得する中で白布がじっと若利を見ている。
「どうかしたか。」
「ま、亡くなった親父さんからもらったものをあの嫁がすぐ手放す訳はありませんよね。」
「知っていたか。」
「小耳に挟んだもので。」
「そろそろ賢二郎が第三の兄貴になりそうな気がしてきた。」
「太一うるさい。それと山形さんは何やってんです。」
「ケータイどこに置いたかわかんなくなっちまった。」
「文緒には山形のようにならないようよく言っておこう。」
「やめろ。」
そして野郎共が朝練で汗を流している頃、文緒は1-4の教室で1人初めてのスマホの画面を見つめている。机の上にはあの携帯型映像機器がロックを解除された状態で置かれていた。
次章に続く