第44章 ・スマホと大切なもの
「聞いた猛、もし彼女出来てもこんな束縛しちゃ駄目だよ。」
「徹は羨ましいだけじゃねーの。」
「そういう心を抉るよーなこと言うのも駄目っ。」
「つか、妹は嫁にしちゃいけないんですよ。」
真っ直ぐ目を見て言ってくる猛少年、流石にギョッとした及川が何か言う前に若利はごくごく微かに笑った。
「ああ知っている。ただうちの場合は問題ない。」
勿論猛は首を傾げ慌てた及川がもうその辺にしようねと甥を引っ張る。
「ったく、どこまでも溺愛しちゃってまあ。」
「愛しているのには違いないが必要以上に女子へ愛想を振りまいているお前に言われるのは納得が行かない。」
「俺は必要以上に束縛したりしてないもんね。」
「逆にフラれるけどな。」
「猛、いい加減にしてくれない。」
「バレーの事は別にして文緒に手出しは許さない。」
「安心して、弄りはするけど横取りはしないから。」
「弄られるのもかなわん。特に触れようものなら覚悟することだ。」
「おーこわ。」
「不快だ。」
「おっかない顔しないでよ、大丈夫だって。じゃ俺らはもう行くから。ほら猛、おいで。」
「ちょっ、徹先に行くなよっ。じゃ、さよなら。」
「ああ。」
及川は甥の手を引いて去って行く。若利は結局何だったのかよくわからないと首を傾げて義妹と母の方を見る。そろそろ手続きが終わりそうだった。
及川らが去ってからしばらくして義妹が母と共に若利のもとに戻ってきた。手には紙袋を握っている。
「兄様、もしや及川さんとお話ししてましたか。」
「ああ、たまたま近くにきていたようだ。しかし何故わかった。」
「何となく聞き覚えのある声が聞こえたので。」
「そうか。大したことは話していない。」
「そうですか。」
文緒は行ってスカートのポケットをゴソゴソする。若利は義妹がそこに端末を2つ入れようとしている事に気づいた。
「あの薄い端末も入れるのか。」
「はい。」
「スマートフォンになったのだ、必要ないだろう。」
普通なら思う事を若利は呟くが文緒はふるふると首を横に振る。