第44章 ・スマホと大切なもの
「お家なら良いのですか、お母様。」
呟く文緒に母はさりげなく目を逸らした。
そうしてやっと順番が来て何やかんやと手続きが始まる。母と義妹が店員から説明を受けている間若利は店内をぐるりと歩いていた。置かれている端末のサンプルを何となく眺めながら今日日は色々あるものだと思う。スマホは初めてとなる文緒はどうやって希望のものを絞り込んだのか。文芸部の連中に聞いたりそれこそSNSでつながっている誰かに聞いたりしたのだろうか。そんな事を考えながらでかい約1名がウロウロしているのはどうしたって目につく。ふいにあ、ウシワカだと言われた。見れば坊主頭の少年だ。続いてこら猛っと聞いたことのある声がして誰かが少年を追ってきた。
「及川。」
若利は呟く。自然と眉間に皺がよっている事には自分で気がついていない。
「ヤッホー、ウシワカちゃん。お前がケータイショップにいるとか違和感以外の何モンでもないよね。」
「確かにしばしば立ち寄る事はないが。」
「ど天然野郎。」
「俺は天然ではない。」
「まだ言ってんの。それより甥っ子がごめんね、遠慮がない奴でさ。」
「徹に言われたくねー。」
「だから呼び捨てやめろってっ。んでウシワカちゃんこそどしたの。」
「文緒の付き添いだ。」
「嫁ちゃんの。」
「まだ嫁じゃない。」
「ローカルっつても公共の電波で嫁可愛いんです発言した奴がよく言うよね。おかげでお茶吹きかけるしびっくりしすぎて思わず岩ちゃんに電話しちゃったし。」
「それは責任を取りかねる。チームでも随分言われたが俺は聞かれた事に答えただけだ。」
「ほんとへこましてえ。」
及川はわなわな震えしかしすぐに手続き真っ最中の文緒を見つけてそちらに目をやる。
「文緒ちゃん機種変すんの。」
「使っていた電話がとうとう使用に差し支え始めた。今度からスマホにする。」
「へー、じゃあ何かあったら色々教えたげるよ。」
「ロボット印に対応出来るのなら有難い。」
「おっと、そーなんだ。」
「徹使えない説だな。」
「猛は黙ってなさいっ。てかどんだけ嫁ちゃん好きなのあれお母さんだよね、ちゃんと保護者一緒じゃん。何だってウシワカちゃんが付いてきてんのさ。」
「念の為だ。人目を惹く娘は油断ならない。」
及川は吹いた。吹くなというのは無理だろう。