第30章 ・ウツイの娘 その2
「もし今日1人で眠れないというなら一緒に寝るが。」
たちまちのうちにチームの奴らの顔がこわばった。中でも瀬見の顔がひくひくしているし五色は顔を真っ赤にして文緒と若利を交互に見ている。文緒は慌てた、大変に慌てた。
「あ、あら兄様そういうご冗談は良くありません。」
ぎこちない笑顔で言うも義兄は首を傾げている。
「冗談ではない。今までもあっただろう。」
更なる爆弾の投下に文緒は叫びたくなった。家でも義母達に気づかれたらちょっと面倒かもしれない事を何だって外でしかもチームメイトの眼前で言ってしまうのか。チームの連中は勿論今何つったといった雰囲気を醸し出している。
「兄様。」
流石の文緒も恨みがましく義兄を見つめた。
「俺では不服か。」
「そうではありません、ああもう何て事。」
文緒は買い物袋を提げた方の手で顔を覆う。見かねたのか埒があかないのにうんざりしたのかここで口を挟んだのは何と白布だった。
「何なんです、」
切込むような口調は文緒にとって不安でしかない。
「まさか兄妹揃って一緒に寝てるんですか。」
しかも義兄はまんま返事をした。
「ああ。いつもではないがたまに。」
止めだった。たちまちのうちにチームの連中は大騒ぎだ。
「ここここの大馬鹿野郎っ、一体全体何やってんだつかそーゆー事を白昼堂々と言うなっ。」
まず叫んだのはやはり瀬見である。
「今は白昼じゃない。」
「そーゆー問題じゃねーわっ。」
「そーです、不謹慎です不謹慎の極みですっ。」
「何故だ。」
「ハハーン、なるほどー。どーりで若利君がちょくちょく文緒ちゃんが布団に入ってるかどーかわかんないとか寝顔がどうとか言う訳だね。」
「ね、寝顔って兄様っ。」
「寝顔の話などしていない。天童、妙な事を吹き込むな。」
「ああああ大変だ、他の連中の耳に入れないようにしないと。」
「そうですね大平さん、添川さん辺りが可哀想なことになりそうですね。」
「それより現時点で若利の嫁が可哀想な事になってるぞ。」