第30章 ・ウツイの娘 その2
そうして文緒は義兄に連れられしかも途中まではバレー部の野郎共付きだった。海に行った時に続いて物凄い図である。
「大事はないな。」
「はい、兄様。」
「ただここで言うのも何だがわかっただろう、俺がいつも何を心配しているのか。」
「はい。」
「まあありゃ極端な例って気もすっけど。」
「文緒ちゃん親衛隊のセミセミが言ってもねえ。」
「天童、酢漬けにされてーか。」
「だから俺は食いもんじゃないって。」
「むしろ除霊されそうな。」
「隼人君まで俺を何だと思ってんの。」
「牛島さん、文緒に護衛とかいりませんか。」
「ちょっと五色君。」
「心境的にはつけたいところだが。」
「兄様っ。」
「冗談だ。」
「まぁ何て事。」
「ユーモアの語源が体液というならそれほど大事なのだろう。」
「何か違う気がします。」
呟く文緒に大平が何にせよと口を挟む。
「とんだ災難だったな、無事で良かったよ。」
「皆様まで巻き込んで申し訳ありません。」
「好きでやった、いちいち謝るな鬱陶しい。」
「ありがとうございます。」
「賢二郎までデレさせるなんて文緒さんは最強だな。」
「何のことでしょう。」
「太一はうるさい。」
それからは皆黙ってしばらく歩いていた。若利は文緒の片手を握っていて文緒も今回は抵抗しない。むしろ文緒としては今までで一番義兄に手を繋がれる事で安心していられた。思わずきゅうと握り返すと義兄がちらりとこちらを見る。
「案ずる事も気にやむ事もない。」
表情は変わらぬまま義兄は呟いた。
「ひとまずお前は無事だった。それに自ら挑発した訳ではないだろう。」
「はい、兄様。」
「ただ今度こそ油断はするな。特に乗り物の時が気がかりだ。」
「つまり。」
「お前は何かの拍子にすぐ眠ってしまう。無防備な所を狙われる恐れがある。」
「善処します。」
文緒は言い若利はその返事に満足したのか頷く。しかし程なくこいつは爆弾を投下した。