第14章 檸檬
この時…
折角立ち直りかけた内藤の心が歪んだ、と近藤先生は思ったそうだ。
親にとって自分がモノのようにしか思われていないと、心底悟った瞬間だったろうとも思ったそうだ。
まだ18歳という若さの少年には、耐えられなかったのだろう。
そこから内藤は必死に勉強し、大学を主席で卒業し、一流と呼ばれる企業へ勤めるようになる。
しかし、内藤はいつも満ち足りていないように見えたそうだ。
そして25歳になったある日、忽然と内藤は、近藤先生の家から出て行った。
電話連絡はあるものの、それからは数えるほどしか内藤には会えなかったそうだ。
「和幸の生い立ちを皆さんに知っていただいたところで、罪は消えることではありません…」
近藤先生は、穏やかな顔のまま呟いた。
「そうですね…うちのカズヤがどれだけ深く傷ついたか…そういう経験のある内藤さんなら、よくお分かりになるのではありませんか…?」
内藤はぼんやりと顔をあげた。
「あんた、カズヤをモノ扱いしたんだよ…」
翔さんは、内藤をまっすぐ見つめて言った。
「カズヤは、アンタに愛して欲しかった。そして、本当にアンタに救って欲しかったんだ…」
内藤の顔が歪んだ。
「だから何もかも捨てて、ロンドンに一緒に行ったんだよ…
そんなカズヤがなんで、日本に一人で帰ってきたと思う?
愛されてる自信がなかったんだよ」
翔さんはぎゅっと拳を握った。
「カズヤは…アンタだったんだ…」
内藤は両手で顔を覆った。
「許してやってくれとは言いません。今後は、あなた方に近づかせるようなことは致しませんので…」
近藤先生は立ち上がると、深々と頭を下げた。
「先生、やめてください!」
翔さんが慌てて立上がる。
でも先生は頭を上げなかった。
部屋がシンとした。
「私は、この子の親ですから…」
先生が頭を下げながら呟いた。
「親が子のやったことを謝るのは、普通のことでしょう…」