第14章 檸檬
「カズヤ」
聞き覚えのある声に、振り向いた。
そこには、いるはずのない人が立っていた。
「元気だったか…」
ヨレヨレのスーツに、汚れた白いシャツ。
泥だらけの革靴は前が少し開いていた。
「会いたかったよ…」
その人は…パパは、俺の過去の亡霊。
よろよろと俺に向かって手を伸ばしてくる。
「カズヤぁ…」
「や…だ…こないでぇっ…」
腕を振り払って走りだした。
家に帰っても、心臓がドキドキして…
現実に起こったことかわからなかった。
俺の様子が変なのを皆わかって、色々聞かれたけど、心配をかけるわけにはいかない。
きっと偶然だ。
そう思って、言わなくてもいいことと割きった。
でも、あれから道を変えて駅に行くようにしていたのに。
また俺の前にパパは現れた。
「カズヤ…」
今度は大学の門をでたところに立っていた。
「凄いなお前…東大に通ってるのか…」
また、よたよたと歩いてくると、俺の手を握った。
「会いたかった…カズヤ…俺にはお前だけなんだよ…」
あの夜のことが、蘇った。
もう痣の消えたはずの手首がじわりと痛んだ。