第7章 虫襖-ムシアオ-
「…嘘つき…」
冷たい目で、笑った。
微笑みながらこちらに歩いて来たかと思ったら、まだぐったりと床に横たわる俺の顎を掴んだ。
「こうして欲しいんだろ?」
右頬に痛みが走った。
「どこまでも汚して欲しいんだろ?」
返す手で、左頬を殴られた。
「雅紀、やめろよ…」
潤の手が雅紀の手を握るけど、それは振り払われた。
「潤、後からしゃしゃり出てきて、ずうずうしいんだよ」
「…雅紀…」
「俺たちの時間に、割り込んできたお前が偉そうにするな」
「和也を捨てた癖に何言ってんだ…」
「…捨てた?…その御蔭で、お前はニノを抱けるんだろ?」
こんな表情の雅紀は見たことがなかった。
「お前に抱かれることが、こいつにとって、罰なんだよ」
潤の目が見開かれた。
「それで感じてるんだよ。こいつは…」
ドクン…
なんで…?
なんで…雅紀、わかってたの…?
冷たい目で俺を見てるのに。
なのにその瞳は、背筋がぴんとするほど綺麗で。
軒下にぶら下がるつららのように綺麗だった。
「雅紀…」
「可哀想なニノ…こんなことでしか、気持よくなれないなんて…」
哀れみを込めた、屈辱的な言葉や視線なのに不思議と怒りが沸かない。
「行かないで…雅紀…」
手を伸ばすと、雅紀はそれを取り静かに手のひらにキスをした。