第3章 進路相談*尽Side
もし、この時に彼女が隣に居なかったら。
俺はもしかすると、姉貴の後を追い掛けていたかもしれない。
そんでもって、相手の男をなりふり構わず殴り飛ばすことの一つや二つを軽々しくやってのけたかもしれないな。
「は……アホらしい」
「……尽?」
そんな事をすれば、間違いなく姉貴は俺を軽蔑するだろう。
弟としての接点さえ、俺は失うことになる。
「……悪い。今日はこの辺で良いか? 俺、急用を思い出してさ」
「あ、そ、そうなの。分かったわ……付き合ってくれて、ありがとう」
組まれていた腕が彼女から外され、『さようなら』と最後に一言だけ告げると。
彼女の背中は雑踏に紛れていった。
俺も踵を返し、歩き出す。
別離を選んだ彼女の背中が一瞬脳裏を過るが、すぐに先ほど見た光景で塗り潰される。
頭の中で展開される自分の想像に、吐き気を催すような気分だった。
「今頃抱かれてるっていうのかよ、あの男に」