第5章 N×A【ずっと、君だけに】
そう、だよな…。
付き合ってる訳じゃないんだ。
関係なんて、体だけ。
感情なんてない、
お遊びから始めたものだから。
「付き合ってないよ、ね?雅紀。」
「へ?あ、うん…。」
「ほんとに?」
「ほんとだって。」
お茶をずずっと啜ると、
雅紀がまだ複雑そうな顔で、
潤くんの方にいった。
隣にいた優しい香りが、
なくなる。
残り香だけ。
存在なんて、ない。
俺、どうしたいんだろ…。
このままずるずる関係を引きずって、
雅紀に辛い想いをさせるの?
…てか、雅紀は俺のことどう想ってる?
そんなのもわからない。
近くにいるのに。
一番近くにいるのに。
雅紀のこと、全然見れてない。
「あ、移動だね。」
翔さんが時計を見て、
大野さんを起こし始める。
俺は雅紀と並んでメークルームまで
ゆっくり歩く。
お互い、さっきのがあってか、
なんだか話し掛けづらくて。
雅紀の思い詰まった表情が
目に焼き付いて離れない。
…ごめんな。
最低な男で。
「雅紀、今日…」
「ごめん。俺、先行くね。」
「あ、うん…」
やっぱり、気にしてるのかな。
雅紀の背中が、少し小さく見えた。