第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
異国の服を自然に身に纏う南は、まるでそこだけ切り取った絵画みたいだった。
大袈裟かもしんねぇけど、オレにはそう見えたんさ。
そこだけ世界が違うかのように、魅せてくる景色。
「…ラビ?」
反応のないオレを、少しだけ不安そうな顔に変わった南が呼ぶ。
その顔にはっとして、慌てて腰を上げた。
「すげぇ似合ってんさっ」
いつもならそのまま勢いで手を握ったりするところだけど、今はぐっと我慢して。
「すげぇ、その……可愛い」
迷わず本音を口にした。
「そう、かな」
今触れたら、勢いで腕ん中に閉じ込めてしまいそうだったから。
だから触れずに…伝えたんだけど…。
オレの言葉に、照れ臭そうにはにかむ顔。
……そんな顔すんなって。
今の南の恰好はオレには色々と刺激が強い。
あんまり可愛い仕草してると、抑えが利かなくなりそうだった。
「これで、誕生日プレゼントになった?」
軽く首を傾げて笑いかけてくる南に、いっそプレゼントとしてお持ち帰りさせて下さいと言いたくなって我慢。
我慢さオレ。
マジで我慢。
「ん、」
こくりと頷けば、ほっとしたように南の頬が緩む。
「じゃあ夏祭り行こう?」
「おー…ってちょい待って」
はたと気付く。
やべぇ、すっかり意識が南に向いて目の前の少女のこと放ってた。
だから慌てて声をかけ直そうとしたんだけど。
「……あれ?」
再び目を向ければ、其処にいたはずの狐のお面の少女はどこにもいなかった。
…いつの間に消えたんさ?