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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)



「どうしたの?」


 黙り込んだ少女に問いかけてみる。
 返答はない。
 なんさ…あ。
 親に知らない人に名前教えるなとか、言われてんのかな。


「オレは変な大人じゃないから、大丈夫──」

「ラビっ」


 遮ったのは、聞き慣れた発音の声だった。


「ごめん、待たせちゃって…っ」


 からんころん、と下駄が鳴る。

 声の主に顔だけ振り返って、その体制のままオレは固まってしまった。
 少女の華やかな金魚のユカタとは違う。
 深い紺色の落ち着いた布生地。
 だけどその中で花開く幾つもの大きな桃色の華は鮮やかに、南の体を纏っていた。

 見たことがある。
 あれは…牡丹の花だ。


「急いで着付けたから、ちょっと不格好かもしれないけど…」


 から、と下駄が鳴って目の前で止まる足。
 黒い漆のような光沢のある下駄に、白い鼻緒が映える。

 腰を下ろした体制のまま、下からゆっくりと見上げる。

 足首のすぐ上から覆っている紺色のユカタ。
 桃色の華が目に優しく主張してくる、大人びた雰囲気。
 白い帯に手を添えて、はぁと息をつく。
 そんな微かな仕草にさえ、ドキリとした。


「…変、かな」


 ゆっくりと見上げた先に待っていたのは、いつもは簡単に縛ってるだけの髪を丁寧にアップにした南の顔。
 目が合えば、恥ずかしそうに見返してくる。
 そんな南の髪に飾られているのは、ユカタの華模様と同じ──…あ。


「南、それ…」

「…あ、これ?…うん。折角だし、使ってみようと思って」


 照れ臭そうに、顔を傾けて左サイドに飾られた髪飾りを見せてくる。
 それはオレが前にあげた、牡丹模様の髪飾りだった。
 …今それがここにあるってことは…まだ持ち歩いてたんさ?


「だからお揃いにしてみたの。どう?」


 そう言ってユカタの袖を握って両腕を軽く広げる南に、ああと気付く。
 牡丹模様のユカタを選んだ理由は、そこにあったのか。

 ……。
 …………やべぇ。

 嬉しい、かも。

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