第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「──南、まだかな…」
此処で待てと言われたから、大人しく祭りの通路横の人気のない場で、木の幹に凭れて待つ。
キモノ…じゃないユカタのレンタルとかあんのかな。
着付けは手伝えねぇけど、一緒に南が着るユカタ選んだり、してみたかったかも…。
……。
…まぁどんな格好してくるのか、こうして待つのも…楽しいんだけど、さ。
「まださー…?」
つい口に出してしまうのは、早く戻ってきて欲しいから。
イギリス時刻で、9日過ぎる手前がタイムリミットだって南に教えてもらった。
となれば残り数時間しかない。
早く戻って来いよ、南。
「ねぇ、」
話しかけられた言葉は、聞き慣れない発音のものだった。
「おにいさん、異国のひと?」
声の主に目を向ければ、視線が下がる。
其処には小さな少女が一人、いつの間にか目の前に立っていた。
白生地に赤い金魚が何匹も泳ぐユカタに身を包んで、ぱっと映える水色の帯を巻いている。
狐のお面をしているから顔は見えない。
でも声からして女の子。
「あー…うん。そうだよ」
こほんと咳払いして、覚えたはいいもののほとんど活用したことのない言語を吐き出してみる。
日本語って、母音が肝心なんだよな?確か。
南の国だからって興味が湧いた時に、一緒に覚えてみたけど…話すとなるとまた違って難しい。
「お祭り、参加しないの?」
「人を待ってるんだ」
「ふぅん、そうなんだ」
考え事をするかのように、軽く首を傾げる少女。
周りに親や友達らしい人影はいない。
逸れたりしたんかな?
「君、一人なの?」
「うん」
「迷子?」
「ううん」
じゃあ一人で此処に、遊びに来たってことさ?
「ねぇ、」
腰を落として少女と同じ目線で話していたら、不意にその小さな手が狐のお面に触れた。
僅かにずらして、口元が見える。
「おにいさんのお名前、おしえてくれる?」
名前?
「…じゃあ、君の名前も教えてくれる?」
本人が無自覚の迷子かもしんねぇし。
一応、名前くらい聞いておくか。
そう思って逆に問いかければ、少女は口を噤んだ。
ん?