第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
思わず伸びそうになった手を止めて、ぐっと拳を握る。
抱きしめたいけど、まずは言うべきことがあるだろオレ。
「…あんがと、南」
必死に徹夜してまで仕事してたのも、見つかったら怒られんの承知でアレンに方舟頼んだのも、全部オレの為に南がやってくれたこと。
それだけでもう充分だった。
これ以上望むことなんてない。
「すげー、嬉しい」
抱きしめる代わりに、その両手を手に取る。
下からそっと包み込んで、やんわりと小さな手を握った。
「ありがとう」
オレがオレとして生まれた日。
偽物じゃない、本物のオレというものを記す日。
その日をこうして、オレだけの為に行動して祝ってくれる人がいる。
すげー幸せだ、今のオレ。
「…うん」
握っていた手が、きゅっと微かに力を込めて握り返してくる。
「ラビは任務控えてるから、遅くまで連れ回せないけど…アレンと約束した時間まではまだ余裕あるから。折角だし、日本観光でもしてみよう?」
にっこり笑って見上げてくる、街灯に照らされた茜色の顔。
その目の下には、薄らと隈の跡が見えたけど。
それでも、オレの胸を打ち鳴らすには充分過ぎる程の顔だった。